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「月城の家、どこだか俺わかるよ。学区内で、実家からそう離れてないから。月城の家は江戸川区じゃない」
「わ……わけわかんないよ」
「行こう、君の家はおそらくまだある」
「ええっ……」
しゃがんでいる俺と椅子に座っている月城。
はっきりと視線が絡んだ。澄んだ瞳。昔はドキドキしたその瞳に、今は鎮痛な色がこびりついている。
月城の身の上を聞いたからそう見えるわけじゃなく、最初に会った時から、どこかで感じていた。
明るくはきはきした昔と変わらない喋り方をするのに、瞳の奥には何か得体の知れない暗さと寂しさ、そして危うさがあった。
光と影が混在する印象は人を、いや、俺を惹きつける。
これも相手が月城だからかもしれない。
「行こう、月城」
俺は立とうとしない月城の手の甲を上から握り、無理に立ち上がらせた。
びくりとして一瞬振り払うような動きをする彼女の手は、結局そうはしなかった。
彼女は助けを求めている。
そう思えて、振り払われるのがすごく怖いのに、すぐには離せなかった。
しっかり立ち上がったところで、ゆっくり離す。
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