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「副社長は?」
「え?」
副社長……。
一瞬誰のことかと思った。思考が小学生時代のクラスメイトに戻っている。
二人でエレベーターを待っている時、月城が横から俺にちらりと、ほんのかすかなちゃめっ気を含んだ視線を投げる。
多目的ルームで対峙した時から、強い憎しみに満ちた目ばかりを向けられてきたから、こういう……わずかとはいえあの頃を彷彿とさせる瞳をされると、鳩尾のあたりに変な浮遊感が走る。
「どうやってIDカードなしでゲートを抜けたの? すっかり騙されたよ。もうCanalsの社員は誰もいないと思ってた」
「俺のランプの色が変わったのを確認してから退社したんだな」
「うん、そう。いつも遅い副社長が四十二階で仕事するなんて言うから、出入管理ボードがあってよかったと思ってたら、それが囮だったなんてね」
「完全に騙し合いだったな」
「念の為、Canalsの出入管理ボードを見に行ったけど、誰もいなかったから安心してたのに。ねえ、どうやってランプの色を変えずに中に入ったの?」
「簡単なカラクリだよ。IDカードが折れたって言って、服部さんに管理室経由でビル内に入れてもらったの」
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