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「……もうっ。月城、これ受け取って。精密機器が入ってんだから、絶対に落とすなよ! 運動神経の問題だからな!」
「えっ……。待って」
肩から通勤リュックを外す俺が、何をしようとしているのか把握したらしい月城は、慌ててその場に自分のバッグを置いた。
「いいか? 落としたら、それは壮絶に、壊滅的に、途方もなく、人としてありえないほど運動神経が鈍い、ってことだからな?」
「えっ!」
君はそこそこ負けず嫌いなんだよ。
煽るとそれなりに力を発揮してくれるんだよ。
俺は自分の通勤用のリュックを、正面より少しズレた位置にいる月城に向かって投げた。
ゲートのこっちと向こう。大した距離じゃない。短い放物線を描いたそれは、十分にキャッチできるものだ。
月城は両手を伸ばして必死にそれを抱え込み、抱きしめるようにしてうずくまった。あぶねー、とアテレコされるような動作だ。
「あっぶな」
「次、行くからな」
「えっ!」
助走をつけてゲートに突進する俺を、通勤リュックを抱えてしゃがみこんだまま、月城はぽかんと見上げていた。
まだスポーツ現役でよかったよ。
俺はなんなくゲートを飛び越えた。高さより、距離がそれなりにあったところがコツがいった。
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