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時刻は午前二時を過ぎている。それでも大通りに出ると案外簡単にタクシーが捕まった。
いちいちナビをするのも面倒で、とりあえず実家の住所を告げ、近くまで行ってもらう。
二人の通った小学校の前を抜けたあたりから、俺は月城の家までをタクシー運転手さんにナビする。
目的地に着き、カードで料金を支払うとタクシーを降りる。
目の前に瀟洒な造りの邸宅がある。形は違えど他の邸宅と調和がなされ、かつては地域の一部としての景観を保っていたんだろう。
「あるよ、月城、ちゃんと」
ただ、現在は他と圧倒的に違うところがあった。人が住んでいない。
敷地内に植えられた木から、つる系の雑草が垂れ下がって伸び、腰あたりの高さの門扉にいく筋も覆い被さっていた。俺はその雑草を手で避けた。
「月城、ほら」
門扉の横の壁に〝月城〟という表札が現れる。
月城の表情が青白い街灯と月明かりに浮かび上がる。
まなじりが裂けるほど目を見開き、半開きになった口元をゆっくりと左手が覆う。
驚きで声も出ないらしい。
飾り格子の門扉の向こう側は、玄関まで飛び石を使った通路になっている。
両側は、庭ってほどの広さはないものの、それなりのスペースがあり、余裕を持って建てられた邸宅だとわかる。
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