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昔は門扉の外側からでもリビングの様子がわかった。
だが今は無理だ。人の背丈より高く雑草が生い茂っている。足を踏み入れる隙間もないほどだ。
月城たちが事故に遭ってから十二年。おそらく一度も、草刈りやら剪定なんかの手入れはしていない。
叔父さん、という人が、この家の存在を知らないわけがないだろうに。
十二年前のある日、カミソリでスパっと現在から切り離されたこの家の時間。
止まった時間は、人の手を離れて草木に宿り、こうして目で見てリアルに確認できるものとなってゆく。
「月城、行こう」
「う……うん」
はっきりそう答えたものの、彼女の足は動かない。月城の膝ははっきりわかるほどガタガタと震え、目には今にもこぼれ落ちそうなほど涙が溜まっている。
「大丈夫だ」
俺は再び月城の手を取った。震えの止まらない小さな手だった。
心細さを通り越し、恐怖を感じているだろう月城相手とはいえ、小学校当時ではとてもできなかったことができている自分に成長を感じた。
これはたぶん成長だ。他の女子相手ならこういう選択はしないに違いないから。
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