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俺が先に立って雑草を右手でかき分けて道を作り、左手をつないだ月城が、俯きがちについてくる。
玄関のドアノブを動かしてみたけれど、もちろん鍵がかかっている。
「月城、ここで待ってて。リビングにまわってみる」
「嫌だ……」
つないだ手に月城の方からわずかに力が加わった。
「わかった。一緒に行こう」
二人でリビングにまわる。全面ガラス張りの大きなリビングの窓は、出入りができる仕様だ。
ラッキーなことにクレセント錠だった。
「月城、ちょっとだけ離すな。大丈夫だから」
断ってその手を離す。
「ご……ごめんなさい」
月城が一歩後ずさりする。
「動揺して当たり前だって。こんなの。ちょっと離れてて」
俺は背負っている通勤用リュックの中から、ガムテープを出した。応接室にあった備品だ。
それから雑草の生い茂る庭に、それなりの大きさの石を見繕うために足を踏み入れた。
昔は花壇だったらしい場所には煉瓦が並べてあったから、そのうちのひとつを拝借した。
おあつらえ向きだ。
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