◇◇村上健司◇◇ 対峙

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 俺のやることをただ見守っていた月城は、一瞬ためらったものの、俺の手を取り、自分も靴を脱いで中に入ってきた。 「あ……ありがとう……」 戸惑ったような控えめな感謝の言葉は、俺がガラス片を足で避けた事に対してなのか、手を差し出した事にたいしてなのかわからない。ただあそこまで憎悪の感情を向けた相手に対して、礼を口にする事への気まずさは感じる。 月城にしてみれば、困惑しかないような状況に違いない。  もう十年以上空き家のはずだ。 電気もガスも水も止まっているだろう。 俺たち二人はスマホのランプ機能を作動させた。  リビングの中は取り立てて変わった様子はなかったが、誰かが頻繁(ひんぱん)に出入りしている形跡はなく、どこもかしこも埃が積もっていた。 リビングの奥はアイランド型のキッチンになっている。 ここも埃だらけだ。 久々に人が入ったせいで舞い上がった埃が、スマホのランプに照らされてできた放射状の明かりの中で、キラキラと踊っている。  月城を振り向くと、驚きに満ちた好奇の目をして、周りを見渡している。 「月城?」 「わたし、ここに来た事がある。……知ってる」 「知ってて当たり前だって。月城の家だよ」 「そう……そうなんだ」
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