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俺のやることをただ見守っていた月城は、一瞬ためらったものの、俺の手を取り、自分も靴を脱いで中に入ってきた。
「あ……ありがとう……」
戸惑ったような控えめな感謝の言葉は、俺がガラス片を足で避けた事に対してなのか、手を差し出した事にたいしてなのかわからない。ただあそこまで憎悪の感情を向けた相手に対して、礼を口にする事への気まずさは感じる。
月城にしてみれば、困惑しかないような状況に違いない。
もう十年以上空き家のはずだ。
電気もガスも水も止まっているだろう。
俺たち二人はスマホのランプ機能を作動させた。
リビングの中は取り立てて変わった様子はなかったが、誰かが頻繁に出入りしている形跡はなく、どこもかしこも埃が積もっていた。
リビングの奥はアイランド型のキッチンになっている。
ここも埃だらけだ。
久々に人が入ったせいで舞い上がった埃が、スマホのランプに照らされてできた放射状の明かりの中で、キラキラと踊っている。
月城を振り向くと、驚きに満ちた好奇の目をして、周りを見渡している。
「月城?」
「わたし、ここに来た事がある。……知ってる」
「知ってて当たり前だって。月城の家だよ」
「そう……そうなんだ」
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