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そこで、俺の背後で何かが落ちるような大きな音がした。
振り向くと、月城が横坐りに頽れている。手には写真たてを持っていた。
小学校の卒業式に家族四人で撮った写真のようだった。おそらくローボードに伏せて置かれていたものだ。
「どうした?」
俺は慌てて彼女のそばに膝をつく。
「パ……パ、パパと、ママと二葉だ……」
音と体勢からしてどこかを強く打ったはずなのに、そんなことにはかまわず前面のガラスが割れた写真立てだけを手に、がくがくと震えている。
割れ落ちたガラスで切ったのか手の甲に血が滲んでいた。
「月城、手! 切ったな。まずこれを離せ」
震えがひどい月城の手から、割れた写真立てをそっと取り上げる。
月城は血のついたままの手で口元を覆って浅い呼吸を繰り返している。過呼吸気味なのかもしれない。
俺は、月城の切れた手の甲にガラスの破片がないかスマホの光でよく観察してから、服のポケットから出したハンカチで傷口を強く縛る。
そこまで傷は深くないようで、ちょっと安心した。
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