◇◇村上健司◇◇ 対峙

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「またいつでも来られるから、今日はもう帰ろう。な? 精神的に限界だろ?」 「嫌……」  手で額を押さえて生え際の髪をかきむしる。涙が左右の頬に流れた。  月城は昼間フルで働いたあと、Canalsのオフィスに不法侵入。 俺に対峙して思いもよらない真実に向き合うことになった。 金曜日の夜でちょうどよかったこともあるけれど、何より〝叔父さん〟の力が月城に及ぶ前にここへ連れてきたいと、あの応接で真相を知った時に強く思った。 でも後悔している。 彼女は明らかに混乱……いや、錯乱(さくらん)状態に近い。 「帰ろう月城」 月城は額にうっすらと汗が浮かぶその顔を、左右に激しく乱暴に振った。 「嫌だ!」 「キャパオーバーだって。体調崩す」 「嫌だ嫌だ嫌だ!」  涙が後から後から流れ出て、そのふっくらとした頬や唇を濡らしていく。 「霞がかかったような不明瞭な記憶だけど……見覚えがあるんだもん。この写真もこの部屋も。このベッドも家具も……。全部……」 「月城……」 「ここは、パパとママの部屋だぁぁ……」
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