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「またいつでも来られるから、今日はもう帰ろう。な? 精神的に限界だろ?」
「嫌……」
手で額を押さえて生え際の髪をかきむしる。涙が左右の頬に流れた。
月城は昼間フルで働いたあと、Canalsのオフィスに不法侵入。
俺に対峙して思いもよらない真実に向き合うことになった。
金曜日の夜でちょうどよかったこともあるけれど、何より〝叔父さん〟の力が月城に及ぶ前にここへ連れてきたいと、あの応接で真相を知った時に強く思った。
でも後悔している。
彼女は明らかに混乱……いや、錯乱状態に近い。
「帰ろう月城」
月城は額にうっすらと汗が浮かぶその顔を、左右に激しく乱暴に振った。
「嫌だ!」
「キャパオーバーだって。体調崩す」
「嫌だ嫌だ嫌だ!」
涙が後から後から流れ出て、そのふっくらとした頬や唇を濡らしていく。
「霞がかかったような不明瞭な記憶だけど……見覚えがあるんだもん。この写真もこの部屋も。このベッドも家具も……。全部……」
「月城……」
「ここは、パパとママの部屋だぁぁ……」
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