◇◇村上健司◇◇ 対峙

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俺はヒラっと手をあげて部屋から出ようとした。五歩くらい歩いたところで、先に進めなくなった。ダウンジャケットの裾を掴まれている。 「なんだよ、月城」 「えーと……。あれっ、なんか手が引っかかった……かもしれない」  ぶぶっと吹き出しそうになる。計算済みに簡単に引っかかる月城が可愛い。 君は大きい虫が苦手で、特にGは名前を言われるだけで鳥肌たてるほど大っ嫌いだったんだよ。 そのくせ、掃除の時間に出てくると本気で逃げ回りながら無駄な殺生(せっしょう)はやめろ!とかバカ真剣に叫ぶちょっと変わったやつだったんだよ。 「素直じゃないんだよ。俺のが有利だからな? 月城が虚勢張って言ってんのか本音なのかすぐわかるから。昔と性格変わってないもん。めっちゃ顔にでる」  俺は手のひらの一番下、骨の部分で月城の額を軽く押した。 「……」 「自分の部屋が気になるんだよな? そこには月城の中学時代がそのまんま残ってる。俺はここにいるよ。だから行ってこいよ。どの扉だか思い出した?」 「でも……悪い。こんな時間まで」 「俺も聞きたいことはあるんだよ。なんでCanalsを狙ったのか、とかな」
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