◇◇村上健司◇◇ 邂逅

15/33

298人が本棚に入れています
本棚に追加
/246ページ
異変に気づいたのは、自宅マンションの鍵を開けようとダウンジャケットのポケットを探った時だった。 店に預けていた貴重品を受け取り、財布とスマホは斜めがけカバンの中に、家の鍵はダウンジャケットのポケットに入れた。 左右どっちに入れたっけな、と両手を各々ポケットに突っ込む。鍵は右側のポケットから出てきた。 でも鍵以外のものを入れる習慣のない左側のポケットに、何か硬い、長方体のものが入っているのがわかる。 俺はそれを引っ張り出した。 「名刺……?」  一枚じゃなく、数百枚単位の、発注したものを受け取っただけのような名刺の束だった。厚紙でできたごく簡易な箱に入っている。 「え……マジかよ……」 名刺を発注した覚えはない。  このダウンジャケットは俺のものじゃなくて、誰か同じブランドを着てきた客が自分のだと勘違いして、着て帰ってしまったということか。 あの時、大きくクローゼットを開けられ、「これでしたよね?」と聞かれた時、迷いなく頷いた。 黒いダウンは他にもあったかもしれない。だけど肩についているマークがはっきりと見えたのだ。
/246ページ

最初のコメントを投稿しよう!

298人が本棚に入れています
本棚に追加