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「はいはい、承知しました。月姫さま!」
月姫さま。
機嫌を取る時だけわたしをそう呼ぶ男の子が……昔いた。
この家に入ってから、記憶の上に重ねられたベールが一枚一枚剥がされていくような感覚に襲われている。
もっと早く、全部一気に剥がして欲しいのにそれが叶わずもどかしい。
記憶に濃淡もある。
まず、家族の詳細や思い出がいくつもフラッシュバックする。
その中に時折小学校生活のものも混じるのだ。
生活拠点だった我が家で、この部屋がママとパパのものだから、家族に関する記憶がよみがえってくるんじゃないかと思えた。
家族以外の記憶を取り戻すために自分の部屋を調べたかった。自分の部屋には、きっと学校生活の情報が詰まっている。
村上くんが口にした月姫さま……。
心地よくて甘酸っぱい気持ちが胸を圧迫し、一瞬息が止まりそうになった。あの感覚はなんだろう。
家族に対する感情とは全く別の場所にある気持ちだ。
パパとママの部屋から廊下に出る。ここにきた時は、夢の中で見たかもしれない光景のように頼りなかった記憶が、多少なりとも鮮明になっている。
わたしは残る三つの扉のうち、どこが自分の部屋だか確信できた。
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