◇◇月城一颯◇◇ 覚醒

8/32

304人が本棚に入れています
本棚に追加
/254ページ
 「やだよ。もうやってらんないよ」 そこでわたしの手首を掴んだままの、村上くんの手がぴくりと反応したのがわかった。 深いため息が聞こえた。 「わかるよ。事故に遭ってからずっと信頼してた人に、裏切られたんだもんな。でもこの中から二個は食え! ノルマだ」 「一個でいい? 二個も食べたら吐きそう」 「吐きそうなのに酒は飲むのか」 「うん」  村上くんはまた、ため息とともにわたしの手を離した。 「まあ、確かにやってらんないわな」  わたしはワンカップの日本酒を横目に小さいパンを手に取った。 これは悪い夢?  それともいい夢?  実家が燃えていなかった。 両親の温もりがここには詰まっている。 と、同時に、叔父さんに……それなりには愛情を注がれていると信じ込もうとしていた、わたしの十二年はなんだったのだろうか。 わたしには肉親が二葉の他に叔父さんしかいなかった。 二葉はうつ状態の上に声を出せず、記憶喪失のわたしより、さらに現実に背を向けてしまっている。
/254ページ

最初のコメントを投稿しよう!

304人が本棚に入れています
本棚に追加