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「やだよ。もうやってらんないよ」
そこでわたしの手首を掴んだままの、村上くんの手がぴくりと反応したのがわかった。
深いため息が聞こえた。
「わかるよ。事故に遭ってからずっと信頼してた人に、裏切られたんだもんな。でもこの中から二個は食え! ノルマだ」
「一個でいい? 二個も食べたら吐きそう」
「吐きそうなのに酒は飲むのか」
「うん」
村上くんはまた、ため息とともにわたしの手を離した。
「まあ、確かにやってらんないわな」
わたしはワンカップの日本酒を横目に小さいパンを手に取った。
これは悪い夢?
それともいい夢?
実家が燃えていなかった。
両親の温もりがここには詰まっている。
と、同時に、叔父さんに……それなりには愛情を注がれていると信じ込もうとしていた、わたしの十二年はなんだったのだろうか。
わたしには肉親が二葉の他に叔父さんしかいなかった。
二葉はうつ状態の上に声を出せず、記憶喪失のわたしより、さらに現実に背を向けてしまっている。
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