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初恋だった。幼さゆえに、こういう気持ちが恋なのかどうかが不明瞭なままに卒業を迎えてしまった。
あとから思えばわたしは単純にできているのかもしれない。
「○○―! いい加減にしてよ! いつまでたってもおわんないじゃな……げ?」
掃除の時間に先生がいなくなると、率先して箒をバットがわりに雑巾をボールがわりに、野球を始める。その男子の打った球、もとい雑巾が放物線を描いてわたしの頭にひらりとかぶさる。
「臭いっ!」
「けっ。鈍いやつめ」
「○○―っ! もおおおおお! 怒ったぁー」
わたしはその男子を追いかけ、男子は逃げる。脚が速くとてもわたしが追いつけるような相手じゃなかったけれど、転んだり、どこかを打ちつけたふりをすれば、簡単に騙されて戻ってきた。
だからわたしはいつも転んだ。
いつも「痛いっ!」とその男子に向かって大声でアピールした。
心配そうな目でこっちを見て、口を半開きにするその表情に、胸がいいしれない疼き方をする。
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