◇◇月城一颯◇◇ 覚醒

15/32

305人が本棚に入れています
本棚に追加
/257ページ
彼の志望校は、大学の附属で男子校だった。 大学受験をしないで好きなことに熱中するために、そこの中学を目指すのだと何かの時に本人から聞いた。 彼はやると決めたら絶対に成し遂げるだろう。 仕方ないことだよね、そういうこともあるよね。 月日は止まってくれない。どんなに願っても。 でも卒業前に、何かしたい。何か……。焦る気持ちは空回りするばかりだった。  そして……。 「じゃあな、月城」 数人の男子に囲まれ、ブレザーの胸に造花の赤い花をつけた彼は、校門の前で卒業証書を掲げてわたしに笑いかけた。 わたしはひきつった笑顔を返すのが精一杯だったかもしれない。 もう一緒に笑い合えない。話すことも姿を見ることもできない。 中学の制服が体に馴染む頃になっても、夜、ベッドの中で涙が伝うことに心底困惑する。 バスケ部のベンチ入りメンバーで名前が呼ばれた夜も、期末考査の上位者で名前が張り出されたその夜も、関係ないことで寂しさの涙が流れる。
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

305人が本棚に入れています
本棚に追加