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彼の志望校は、大学の附属で男子校だった。
大学受験をしないで好きなことに熱中するために、そこの中学を目指すのだと何かの時に本人から聞いた。
彼はやると決めたら絶対に成し遂げるだろう。
仕方ないことだよね、そういうこともあるよね。
月日は止まってくれない。どんなに願っても。
でも卒業前に、何かしたい。何か……。焦る気持ちは空回りするばかりだった。
そして……。
「じゃあな、月城」
数人の男子に囲まれ、ブレザーの胸に造花の赤い花をつけた彼は、校門の前で卒業証書を掲げてわたしに笑いかけた。
わたしはひきつった笑顔を返すのが精一杯だったかもしれない。
もう一緒に笑い合えない。話すことも姿を見ることもできない。
中学の制服が体に馴染む頃になっても、夜、ベッドの中で涙が伝うことに心底困惑する。
バスケ部のベンチ入りメンバーで名前が呼ばれた夜も、期末考査の上位者で名前が張り出されたその夜も、関係ないことで寂しさの涙が流れる。
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