◇◇月城一颯◇◇ 覚醒

18/32

306人が本棚に入れています
本棚に追加
/259ページ
  「わたしの……布団」  取られないようにぎゅっとつかむ。 「月城の布団じゃなくて、俺のダウンジャケットなの! 下に敷いとかないと変なダニとかいそうじゃん。貸したまま車取りに実家に帰ったから。外、めっちゃ寒かったんだぞ」 「ありがとう」 「いいかげん起きろってー。酒二杯でここまで泥酔(でいすい)できるやつって初めて見たわ。何が『わたし、結構強い』だよ」  その後、わたしは誰かに背負われた。さっきの、男っぽい匂いの布団――でもかなり匂いが薄まっちゃったみたい――に頬が乗る。 おんぶされて進んでいるらしい。小さな子供の頃を思い出す。 「パパ……」  そう(つぶや)いた時、一瞬、歩く人の足が止まった。  車の後部座席にそっと横たえられ、肩までさっきの布団が丁寧に被せられる。車が発進した気がする。 状況から、誘拐されたと判断してもおかしくないのに、頭の隅ではちゃんとわかっている。 この車を運転している人はぜんぜん危険じゃないから、わたしは何も心配することはないのだ。
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

306人が本棚に入れています
本棚に追加