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「わたしの……布団」
取られないようにぎゅっとつかむ。
「月城の布団じゃなくて、俺のダウンジャケットなの! 下に敷いとかないと変なダニとかいそうじゃん。貸したまま車取りに実家に帰ったから。外、めっちゃ寒かったんだぞ」
「ありがとう」
「いいかげん起きろってー。酒二杯でここまで泥酔できるやつって初めて見たわ。何が『わたし、結構強い』だよ」
その後、わたしは誰かに背負われた。さっきの、男っぽい匂いの布団――でもかなり匂いが薄まっちゃったみたい――に頬が乗る。
おんぶされて進んでいるらしい。小さな子供の頃を思い出す。
「パパ……」
そう呟いた時、一瞬、歩く人の足が止まった。
車の後部座席にそっと横たえられ、肩までさっきの布団が丁寧に被せられる。車が発進した気がする。
状況から、誘拐されたと判断してもおかしくないのに、頭の隅ではちゃんとわかっている。
この車を運転している人はぜんぜん危険じゃないから、わたしは何も心配することはないのだ。
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