◇◇月城一颯◇◇ 覚醒

29/32
前へ
/261ページ
次へ
わたしは鞄から出したハンドタオルを枕の上に拡げると、ゆるいニットとマキシ丈のスカートという昨日働いていたその格好のまま、ベッドに潜り込む。 お風呂に入っていないどころかメイクも落としていない。 せめてファンデーションがつかないようにと、タオルだけでも置いた。真冬だったことがまだ幸いだ。 夕凪(ゆうな)ちゃんが寝たからいいだろう、とか言っていたけれど、確かに若い女の子特有の甘い香りがかすかにするけれど、圧倒的に強いのは、男っぽい……村上くんの匂いだった。 実家で敷布団だと勘違いしていた、村上くんのダウンジャケットの内側から漂うものと同じぬくもりに包まれる。なぜかとても安心できた。 短時間だけどぐっすり眠ったせいか、そこまでの眠気はなく、それよりも日記に向かう関心の方が大きい。 実家に行ったことでかなりの記憶を取り戻せた。 とはいえ、まだ、水滴で曇ったガラス窓の向こう側を、無理に覗いた時のような漠然とした過去の風景しか見えない。
/261ページ

最初のコメントを投稿しよう!

306人が本棚に入れています
本棚に追加