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当時の喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、そして悩み。それがリアルに、日記帳のページの上に記されていて、読み進めていくうちに涙が伝った。
そこに頻繁に登場する男子がいた。名前は伏せられ、〝K〟と表現されている。
でも……わたしはその〝K〟が誰なのかを、思い出した。
ついさっき、実家で眠っていた時に見た夢。あれはわたしの過去だ。押し寄せる記憶の波に、溺れそうになる。
男子に囲まれて笑う小学生の〝K〟。わたしに向かい親指を立て、やったぜ! を示してドヤ顔をする〝K〟。
ドキドキしすぎて心臓が壊れそうだった校外学習でのフォークダンス。
勇気を出せなかった最後のバレンタイン。卒業式の後、大きく手をあげて光に溶けていくブレザー姿。
日記に記してある過去の感情は、昨日のことみたいに心の中心を刺し貫く。胸が重機で潰されたように苦しい。
そして、若いスーツ姿やビジネス用の私服に囲まれ、あの頃と同じ笑顔を見せる現在の〝K〟。
「皮肉だ……」
未来のある地点でもう一度出会うために、小学校を卒業してからも努力を重ねてきた。
それなのに、わたしが呑気に記憶なんか失っている間に、その地点はとっくのとうに通過してしまっていた。
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