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「村上―! いい加減にしてよ! いつまでたってもおわんないじゃな……げ?」
教卓の前で月城一颯が手にした雑巾を振り上げる。
箒をバットがわりに空雑巾をボールがわりに、やっていた教室内野球。
俺の打った球が放物線を描いて月城の頭にひらーりとかぶさる。
「臭いっ!」
「けっ。鈍いやつめ」
「村上っ! もおおおおお! 怒ったぁー」
月城が雑巾を手に、短いチュールスカートをものともしない大股でこっちに突進してくる。
肩より少し長いサラサラの髪が、校舎の窓から入る午後の陽の光に透け、すごく綺麗だった。
俺は机の間をぬって逃げる。月城は追いかけてくる。
「いたっ!」
月城が机横のフックに吊っていた給食袋かなんかに引っ掛かり、豪快に転ぶ。
「月城っ?」
俺はすぐさまUターンして月城の元に戻った。
「骨が折れた」
机に寄りかかって腰をさすっている。
「嘘つけ!」
「でも痛いのはホントだもん。もう真面目にやってくれないと、女子の負担がめっちゃ増えるんだからね」
俯いて悲しそうな口調で呟く。
「わかったよ。ちゃんとやる。ゴミ、捨ててくるよ」
「明日からもだからねっ!」
「わかったよ。月姫さま」
「またそれでごまかすー!」
「ごまかしてません。月姫さま」
「ホントだなっ?」
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