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月城は意外そうな声を出して、涙で濡れた顔を膝からかすかに覗かせた。
「月城の実家に連れて行った。記憶の中の両親にもう一度会わせた。だから、そんなに月城が叔父さんに恩を感じてがんじがらめになってるなら、俺だってそうやって月城を縛れるんだよな?」
こうやってしか、今は縛れない。
そこで月城はほんのわずかに頬を緩めた。
「らしくない」
「は?」
「恩を売るとか……村上らしくないんだよ。わたしだって今は昔の村上の性格を思い出したんだから。会社での、副社長としての村上健司も見てきたんだから。そんなことして人を追い詰めるようなキャラじゃない」
「……キャラじゃなくたってやるんだよ。お前をあんなやつの好きにはさせない」
重油のように黒く重く、粘着性のある低い声が漏れてしまう。
やばいな、ぜんぜん自分の気持ちの制御ができてないじゃん、と思うのに。
これじゃ月城に怖がられるかもしれない、と思うのに。
第一、これじゃ好きだって打ち明けているようなものだ。
避けられるかもしれない。
急激に怖くなったところで、月城が、涙に濡れていながらもわずかに明るさの戻った表情で、その身を起こした。
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