◇◇村上健司◇◇ 約束

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 「……覚えてるよ。めちゃドキドキしたから。でもなんの約束したのかは忘れた」 「リレーだよ。男女混合リレー。わたしの走る順番が学年で一番速い女の子とぶつかっちゃってさ。絶対に抜かれるか大差をつけられるか、じゃない。落ち込んでたら、村上くんが『一生懸命走ることだけ考えてればいい。アンカーの俺が絶対に巻き返す。約束する』って言ってくれたの」 「うわ! すげえサムいな、俺」 「かっこよかったよ。わたしは案の定(あんのじょう)抜かされて、約束通り村上くんが抜き返してくれた」 「それも日記に書いてあったんだ?」 「うん。書いてあると思い出すもんだよね。おぼろだけど、そういうことがあった気がする」  へへへっと小学生のような笑いが漏れる。月城も、同じように歯を見せて笑った。  十四年越しに俺たちは二度目の指切りげんまんをした。 時間は猛烈な速さで、夕日に輝く誰もいないあの教室に飛ぶ。 好きな子との指切りに正面を向く事ができず、でも俯きたくもなくて、黒板に消し残ったチョークの粉をちらちらと意味もなく確認していた。 胸の高鳴りが相手に伝わりそうだと心配した事。 校庭から聞こえるボール遊びの音。 廊下での生徒の話し声。 六年二組の教室特有の匂いまでが、空間ごと移動したかのように鮮やかに蘇ってくる。 そしてまた、思いは二十六歳の俺が現在借りているこの部屋に戻ってくるのだ。
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