◇◇月城一颯◇◇ 夜走

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 あれから世界は完全に二極化した。 色彩に満ちたこのオフィスの中では心が軽い。 その分、叔父の家にあたる部分はグレーから真っ黒になった。 村上くんを憎んでいたなんて、わたしの感覚はいったいどこまでバグっていたんだろう。 オフィスの中で、わたしは爪を隠すのを辞めた。「赤堀さんの力になりたくて勉強したんです」と主張して、本来の実力でコードを書くようになったから彼女の負担は減り、完全交代で仕事ができるようになった。 作業をわたしだけに任せてもらえるから、赤堀さんの退社時間は早くなって今日もすでに彼女のゲートランプは緑色だ。 わたしももっと早く退社してもいいんだけど……。 どうしてもガラス張りの副社長室の中に意識が向いてしまう。 そして、見ている限り、村上くんが残っている時に秘書の浅見さんは、必ず副社長室の真ん前の席にいる。 Canalsはフリーアドレスだけれど、自ずと座る場所は決まってくる。 そして秘書である浅見さんの他に、あの席に座る人はいない。
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