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電話を切ると、パソコンの電源だけ落とし、フラップも閉じずにロッカーから通勤用リュックとダウンジャケットを引っ張り出す。
一般社員と違って役員である村上くんの私物は、ガラス張りの副社長室の中に全て収まっている。
電話を切ってから一分もせずに副社長室を飛び出し、鍵をかけながら浅見さんに帰ることを告げている。
わたしは籠から鞄をひったくると、さりげなく村上くんを追ってエレベーターホールに向かった。
席を離れる時に浅見さんの方を伺うと、村上くんのあまりに迅速な行動に追いつけないようで、呆けたようにその場に立ち上がったままだ。
帰り支度がほぼ済んでいたわたしとは違う。
エレベーターホールに行くと、八基あるエレベーターの下降ボタンをすべて押した状態で、イライラとケージが来るのを待っている村上くんがいた。
「副社長」
「月城……」
「……どうしたんですか? すごい勢いで出ていくからーー」
「母親から電話があったってビル管理から電話で……。よっぽどのことかとかけ直してみたら、夕凪が、帰ってない」
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