◇◇村上健司◇◇ 根源

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 そこで、品川は鞄から何か、ファイルに入った用紙を出した。  俺はそれに手を伸ばす。 「なんだ、これは? えっ……」 婚約の誓約書だった。 「これ……」  反射的に月城の方を見ると青ざめた表情で(うつむ)くばかりだ。 「見ての通り、洋太との結婚を約束した証書ですよ。司法書士に間に入ってもらい、きちんとした形にして残した」 「弱みにつけ込んで、こんなことしやがって」 「洋太と一颯は小さい頃から仲がよくてねえ」  そこで洋太と呼ばれた、今まで何も喋っていない綺麗な男を睨むように見つめてしまう。こいつはなんなのだ?  月城との結婚は親の意思?  それにしても芸能人か何かのようにきれいな顔をしている。 髪型といい、黒いTシャツに黒いジャケットを合わせるという、昨今の流行を意識的に作り込んだような、線の細い中性的なイケメンだ。 俺の友達にイケメンなんていくらでもいるけれど、そういう現実に即した奴らとどこか違っている。 夕凪から、月城には婚約者がいて、でも、そいつに対して彼女は微塵も恋愛感情を持てない、と聞いていた。 どんなに不潔っぽくて(あぶら)ぎった親父かと思っていたら、こんなにきれいな男だったとは驚きだ。
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