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俺が憤怒のあまり口を聞けずにいると、品川が媚びるような声で月城に囁きかける。
「一颯。お前に直接会えないからこんな場で言うしかないが……、わたしたちは一颯が戻るなら、Canalsとの合併は諦めてもいいと思ってるんだよ」
「え……」
始終俯いていた月城が思わず顔を上げた。
それは嘘だ。騙されるな。うちを手土産にしない提携なんか、東欧塾にはなんのメリットもない。
東欧塾との提携はなくなるぞ。
「村上副社長、方便だとお考えですね? でも違いますよ。一颯が戻ってくるなら本当にCanalsのことはあきらめましょう。東欧塾さんにも、一颯にはCanals以上の価値があるとすぐにわかってもらえるはずです」
なんだとっ?
気づかれないように深呼吸をして怒りを鎮める。俺が勇み立っている場合じゃないのだ。
月城の気持ちが揺れている。
なんだかこの品川って男は気持ちが悪い。目を見ているとおかしな吸引力によってそらせなくなり、あげく、向こうのいいように誘導されそうだ。
俺はあまりにも怒りが強く、気持ちは揺れない。でも、人と何かが違うのはわかる。催眠術かなんかの一種なんだろうか。
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