◇◇村上健司◇◇ 根源

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 月城はこの応接に入ってから努めて下を向き、あきらかに品川の視線を避けている。 けれど今、思わず顔を上げた月城のその双眸(そうぼう)を、まるで捕まえるかのように、品川は覗き込んでくる。 虹彩の輪がはっきりしたグレーの瞳に、慈悲のような胡散(うさん)臭い笑みを含み、相手の心の奥までするすると入り込もうとする。 「叔父さん、わたし……」  うわずったような声に、正常な状態から外れつつある月城の精神状態が垣間見えた。 「月城っ! 約束だぞ」  俺は隣にいる月城の手首を思わず強く抑えた。月城が我に返ったようにびくりとした。 「副社長、姪に乱暴は困りますよ」 「乱暴なんかじゃないです! 失礼な!」  今度は月城がいきりたつ。 「叔父さん、わたし、今は叔父さんが信じられないんです。ごめんなさい。少し時間をくれませんか?」  そこで品川は立ち上がった。 「いいよ一颯。大切に育てた一颯が、わたしたちを裏切ってCanalsに着くようなことがあるはずもない。でもどこに住んでいるのか、場所だけは教えておいてくれないか? 心配だよ」 「うちの社の借り上げ社宅です。社外秘です」
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