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「……うん」
俯いたまま、小さくうなずく月城からは、〝自分が幸せになってもいいんだろうか?〟と疑問の声が聞こえるようだった。両親を失い、妹が自分のせいでうつ病になったと信じきっている。
月城を、救いたい。あの頃のように、一片の曇りもない笑顔を俺に向けてほしい。
応接室で品川と会ったあの日から、あいつの持つ催眠術のような技術について考えることが多くなった。
月城の記憶喪失は品川の能力に起因しているんじゃないかと調べまくって、俺は、あやふやではあるけれどひとつの仮説にたどり着いた。
〝深層催眠 ディープヒプノシス〟だ。
通常よりも深い催眠状態に誘導し、記憶にアクセスしてそれを封印する。
本来ならトラウマやPTSD、うつ病の治療に使われるものを、あいつは月城に応用したんじゃないのかと疑ってしまう。
催眠術に近いものを使って月城に不当な決断をいくつもさせてきたのは事実だ。
月城は、承諾した時の状況や心理状態を覚えていないにも関わらず、承諾した事実だけを鮮明に自覚している。そしてその辛いリアルに縛られ続けている。
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