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「じゃあ、お言葉に甘えて。カフェラテで」
「了解です」
カウンターに向かう途中、立ち止まって振り向くと、月城はコートを脱いで畳んでいるところだった。自分の腰掛けている場所の隣にそれを置く。
ひとまずここでバイバイはないことに安堵する。
警戒している様子もない。
知ってしまったからなのか、俺にはもう月城が小学生の頃の初恋の相手にしか見えなかった。顔だけじゃなく、声も、表情も、態度までがあの月城の延長線上にあるのだとはっきり確信できる。
でも、月城は、俺を見て、なんなら村上、という苗字を明かしてあるのにも、まったく思い当たっている様子はない。
月城一颯なんて相当珍しい名前に対して、俺の村上健司は、この年代の男、上位百に下手したら入りそうなくらいありふれたフルネームだ。
それでもちょっと寂しく感じてしまう。
逆の立場だったら、苗字を知らずにいても今の容姿だけで俺は月城を認識できたような気がする。
温かいカフェラテを買って、俺は彼女の前に置き、正面に腰掛けた。
月城は小さく、ありがとうございます、と呟いた。
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