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「この中のどれかだと思う」
月城が指差したのは、かつては綺麗な花が咲いていたらしい植木鉢三つだ。元の主は消え去り、今は雑草が蔓延っている。
雨の中、月城は植木鉢を逆さにし、取り出したショベルで、びっしり張っている根を切り離し始めた。
「昔はスポって抜けたのにー」
横殴りの雨の中、作業する月城に傘を差し出す。
「うわ! ビンゴだー。一発目だよ」
月城の泥だらけの手には家の鍵が握られている。
「全部これやってたら、二人とも濡れ鼠だな」
「まあね。着替え持ってきてほんと正解だよね」
答えながらも月城は鍵をタオルで念入りにふき、鍵穴に刺してそれを回す。
簡単に開いた。
家族にしか共有されていない情報が、十二年の時を経て月城の中に戻ってきた。
「村上くん、入って。早く早く」
「お、おう」
玄関から入ると断然月城のお宅にお邪魔している感が湧く。
腰から下は、服が足に張り付くほど濡れていた俺たちは、震えながら二階に上がり、それぞれに着替えた。
俺は月城の両親の部屋を使わせてもらい、彼女は自分の部屋で着替えている。
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