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頬が片側だけ引き攣っている。
スマホと懐中電灯の灯りだけの暗闇の中、瞳が妖しく光る。
いつもは見せないその屈折した表情が、とてつもなく扇状的で雄の匂いを放っている。
「洋ちゃん、一時期引きこもってたことがあるの。その時、わたしがあれこれ世話焼いて……。最終的には芸能事務所に入った。だからわたしのことは信用してくれてるんだよ」
「信用じゃないだろ? 好きだってはっきり断言したよな。結婚できないならモデルも辞めるとか、お前との関係に超前向きでさ。正直、あの中性的な外見とのギャップに仰天したわ」
洋ちゃんを好きだと誤解されたくない。今はまだ、なんの関係も持っていないと知ってほしい。慌てて言葉を継ぐ。
「わ……わたしだって辛い。洋ちゃんのことは、そういう経緯があるからか、弟みたいにしか見られない。でもいろいろいろいろあって、婚約、するしか……。あと、あと、つき合ってるわけじゃない。婚約してるだけ! 何にも、何にもない。手とかも、繋いだこと、ない」
誤解されたくない。
絶対に誤解されたくない。
焦れば焦るほど嘘くさく聞こえるんじゃないかと、わたしはよけいに焦りまくる。
そこで村上くんは、わたしの手首を強く握った。
「好きだよ。月城」
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