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「初恋、だって言ってくれるなら……。大人になって初恋の相手に再会してその相手が、両親を失って記憶喪失になってる。叔父から利用されてる。昔の村上の性格を考えると、救済欲求が働いてもおかしくない」
「救済欲求?」
「そ、そう。救済欲求って……恋愛感情に繋がるんだって」
「そんなんじゃねえよ。月城より困難な状況のやつだって世の中にはいる。実際に会った事もある。毒親だの宗教にハマってる親の子だのな。そういう子に同情はしても、恋愛感情なんて抱いたことはない」
「…………」
「俺のこと、どう思ってる?」
うつむく。その瞳の煌めきに飲み込まれないように、必死に自分のつま先に焦点を合わせる。
「Canalsの……副社長」
「……だけなら、こんなに泣くはずはないよな?」
村上くんの声の調子に、敬虔な祈りのような色を感じる。
砂糖を蒼い炎で炙ったような強烈な甘さと、経験した事のない切なさが鳩尾を貫き、窒息しそうになる。
激しくなっていく外の大雨と雷に、強いはずの覚悟までさらわれそうだ。
駄目だ。
絶対にこの人を巻き込むことはできない。それにわたしは婚約している。
「それ以外の気持ちはないよ!」
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