◇◇月城一颯◇◇ 感極

13/20
前へ
/387ページ
次へ
 わたしは村上くんの手からその手紙を取り上げた。 「同姓同名?」 「……」 「違うよな? これ、いつのバレンタインのチョコ?」 「……小六の卒業前。仲よかったから……お礼に」 「じゃあ、その手紙、読んでもいいんじゃないの? 俺に書いてくれたんだろ?」 「……だめだよ」  わたしは手紙を胸の奥深くに抱きしめた。 「一颯(いぶき)……」  村上くんはわたしの名前を呼んだ。 甘さと苦さの極から同時に電流を流され、心臓が堪え難いほどに痺れる。 切ない感情が理性を押しつぶしていく。 彼はわたしの両肩に手を置き、自分の方に反転させた。 わたしは完全に腰を抜かした状態で、村上くんがそうすることはしごく簡単なことだった。  名前を呼ばれたこと、両肩に置かれた手の重さ、その手が震えていること、全てが冷静な思考を奪いさる。 判断能力は限りなくゼロに近づき、剥き出しの本心だけが残った。 「わたし……村上が好きだった。小学校の時。でも勇気がなくて渡せなかった」 え……。わたし今、何を……。
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1367人が本棚に入れています
本棚に追加