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自分のものとは思えない告白が口をついて流れ出ていた。
「小学校の時だけじゃないよな? 今もだよな?」
村上くんの手がわたしの背中にまわり、自分の方に引き寄せようとする。
わたしはなけなしの理性を総動員し、彼の胸に両手をおいてそれを阻止する。
「好きだよ、一颯。小学校の時も、今も。再会してからどんどん……」
拳にした手からは力が徐々に抜け落ちようとしている。
駄目だ、駄目だこんなことは……。
「俺が好きじゃないなら押しのけろよ。突き飛ばしてくれて全然いい」
突き飛ばそう。
弱く、わたしはその胸を押したかもしれない。
弱すぎて、それは押された本人にすら響いていないだろう。
でも、でも両手はまだ村上くんの胸の上だ。二人の距離をゼロにする最終砦をわたしは外していない。
「その手を外せよ一颯。その手で俺の背中を抱けよ」
命令形を、懇願の眼差しで口にするのはずるい。
わたしの視線を掬い取るように、無理に合わせてくる、その瞳の色が苦しそうでやるせない。
八十パーセントの自信と、二十パーセントの恐怖が織りなす表情に惹きつけられ、身体の自由が効かない。
わたしの手はいつの間にかフローリングに落ちていた。
「好きだって言えよ、今も俺を好きだって……」
外は嵐。
理性は大風にさらわれ、いまや芥子粒のようなその片鱗が、胸の隅に引っかかっているかどうかだ。
残ったのは目の前にいる人へと、暴風のような勢いで向かう強く苛烈な想いだけ。
「好きだよ……だいすーー」
最後までは言わせてもらえなかった。
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