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わたしの唇は、村上くんの唇で塞がれていた。
唇が離れた時、頭が横に傾き、右目の目尻から涙が頬を伝って流れ落ちる。
「……裏切りだよ……。こんなの」
「脅されてした婚約なんて無効だ」
「でも……サインしたのはわたしだ」
「そうだな。天罰がおりるかもな。怖い?」
ゆるく首を振る。もう何も歯止めにはならない。
天罰も。
倫理観も。
わたしを慕ってくれる弟のような存在への強い罪悪感も。
「俺が強引なんだ。もう我慢できない。ぜんぜん我慢が効かない。一颯は何も悪くない。天罰は俺が全部引き受けるよ」
村上くんはもう一度わたしを抱きしめた。
彼の左手はわたしの身体を抱き、右手は後頭部を強く押さえている。
右手には強い力が加えられ、角度を調整されて深い口づけをされる。
気づけば唇が割られ、舌で口内をやみくもにさらわれている。
情熱的で、野生的で、本能剥き出しで、わたしの過去も思考も何もかもを彼方に飛ばしてしまう甘く荒々しいキスだった。
二人とも息が続かなくなり、一度離れる。
至近距離でぶつかった彼の瞳は、貝から取り出したばかりの黒真珠のように艶やかに美しく濡れている。
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