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「乱暴すぎるよな。謝んないけどな」
言葉を奪われたわたしは、ただ黙って頷いた。涙が床に散る。
わたしの頬を撫でる親指の腹は、大きく震えている。
さっきあんなに情熱的なキスをした人のものと、同じだとはとても思えない。
自惚れなのか、恋心が満ち溢れている、知りうる限りで一番優しい指の動きだ。
「後悔、してんの?」
「後悔したいよ。でも、わたしももう我慢が効かない」
そこで村上くんはようやく表情を緩ませ、両方の口角が引き上がる。
大雨の中、大型車のヘッドライトの滲んだ光が一瞬部屋に鋭く差し込んだ。
目の前で、天使と悪魔の混血児が白い歯を見せて蠱惑的に微笑んでいる。
その妖艶な瞳にわたしは絡め取られる。
「行こう、一颯」
「うん」
どこに連れて行かれるのかわかっている。
でももうわたしの中に理性は、砂つぶほども残っていなかった。
わたし達は手を固く握りしめ合う。
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