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玄関の内側に入るなり、彼は荷物を手放し、わたしを両手で、力強く抱きしめた。
首筋に鼻先を強く擦り付けられ、込み上げる甘さに目眩を覚えて足がもつれ、力が入らない。
膝が砕けそうになり、わたしは村上くんに必死でしがみつく。
抱き合ったままふたり、もどかしく靴を脱いだ。
灯りもつけない。
「こっち」
わたしの手を引き、一直線に寝室を目指す。
寝室では、この間は出てきたミケとチャピが、あまりに遅い時間だからか猫用のベッドで丸くなって眠っている。
「悪いな、お前ら」
村上くんはそのベッド二つを両手で引っ張り、リビングに出し、扉を閉めてしまった。
そんなことをされても二匹とも薄く目を開いて、村上くんを確認すると、そのまままた眠りに落ちていった。
現実から隔離されたような真夜中。
庭付きの一階で、生垣を薙ぎ倒すかのように吹き抜ける暴風雨の音が響く。
「悪いの。ミケとチャピ、かわいそう」
「だって……。人間にもどうにもならない事情がある」
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