◇◇月城一颯◇◇ 感極

18/20
前へ
/387ページ
次へ
玄関の内側に入るなり、彼は荷物を手放し、わたしを両手で、力強く抱きしめた。 首筋に鼻先を強く擦り付けられ、込み上げる甘さに目眩(めまい)を覚えて足がもつれ、力が入らない。 膝が砕けそうになり、わたしは村上くんに必死でしがみつく。  抱き合ったままふたり、もどかしく靴を脱いだ。 灯りもつけない。 「こっち」  わたしの手を引き、一直線に寝室を目指す。 寝室では、この間は出てきたミケとチャピが、あまりに遅い時間だからか猫用のベッドで丸くなって眠っている。 「悪いな、お前ら」  村上くんはそのベッド二つを両手で引っ張り、リビングに出し、扉を閉めてしまった。 そんなことをされても二匹とも薄く目を開いて、村上くんを確認すると、そのまままた眠りに落ちていった。 現実から隔離されたような真夜中。 庭付きの一階で、生垣を薙ぎ倒すかのように吹き抜ける暴風雨の音が響く。 「悪いの。ミケとチャピ、かわいそう」 「だって……。人間にもどうにもならない事情がある」
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1365人が本棚に入れています
本棚に追加