◇◇村上健司◇◇ 悔恨

2/28
前へ
/387ページ
次へ
一颯(いぶき)……」 終わったあと、一颯が、俺に背中を向けて肩を振るわせている。 やっと俺のものになったのに、確かに俺を好きだと言ってくれたのに、なんで背を向けるんだ。 むき出しの肩にそっと手をかける。 「泣いてるの?」 「泣いてないよ……」 「俺、乱暴だった? 一颯、可愛くて、愛おしすぎて、俺夢中で……途中から記憶が曖昧……。なあ、一颯……」 可愛かった。 恋しかった。 理性なんて霧散するほど可愛くて、心臓がちぎれるように痛くて、強く強く一颯を求めた。 無我夢中過ぎて、俺いったい何をしたんだろう、と不安になる。  背を向けられていることに耐えられず、俺はできうる限り丁寧に彼女を反転させる。 一颯は俺の胸の中に深く顔を埋めてきた。 まさか、初めてだった?  あの家にいたんじゃ、恋愛なんてできなかったんだろうか。 「一颯、初めてじゃ……」 「違う。大学生の時につき合ったことはあるから。バレて、すぐ別れさせられたけど」 「……なんて野郎だよ。……じゃ、今でもそいつの事が忘れられない、とか……」  一颯の心に他のやつがいるなんて、考えただけでナイフで胸をズタズタに切り裂かれる感覚がする。
/387ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1365人が本棚に入れています
本棚に追加