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「まさか。もう五年以上昔のことだよ」
「そっか。よかった」
「でも、もっともっと昔、好きになった人の事は、きっと心のどこかにいつもあった気がするんだ。記憶喪失になっても。ごめんね、最初ひどい態度とって、取り返しのつかない事をしようとしたのに、こんな事思うなんて……おかしいよね」
「それ、俺のこと?」
昔から変わらないサラサラの髪をゆっくり撫でる。
「うん」
「じゃあ、なんで泣くの?」
「健司のこと、わたしの事情に巻き込んだ。婚約してるのに、洋ちゃんの事は裏切った」
俺は一颯を、胸のもっと深くに強く抱きしめて抱え込む。髪をなん度も櫛る。
この子が心の底から愛おしくて大切すぎて、俺自身がどうにかなってしまいそうだった。
「なんで一颯はそんなにいい子なんだよ。自分が何をされたかわかってるだろ? 違法だよ。人権侵害だよ。あんな婚約は無効だって」
「そうだね」
好きでもない婚約者がなんだよ。俺が今さら一颯を手放せる訳がない。無理に決まっている。
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