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「俺は一颯を、今の状況に追い込んで育てたあいつらが許せない」
「……うん」
一颯の返答が弱い。
どうしてなのか、なぜ一颯がこんなに罪の意識に苛まれているのか、おぼろな輪郭が形作られてきたような気がする。
一颯は……あいつを裏切った事、俺とこうなった事を後悔しているのか。
「ごめん、一颯。俺、急ぎすぎた。我慢できなかった」
声が震える。
涙が込み上げてくる。
一颯は、たぶんまだ心の整理がついていない。
無理に婚約者にされたとはいえ、兄妹のように育てられて、一時期は自分が面倒を見てきた男を裏切った。
品川に対してよりも、洋太って男にこそ、恋愛感情ではないにしろ気持ちがあることがわかる。
俺はそれに気づいてしまった。
一颯の実家にいる時にかかってきた電話で、そのことを潜在的に悟ってしまったのだ。
だから焦っていた。
だって、取られたくない。
どうしてもどうしても取られたくない。
誰かにこの子を取られたら、俺が壊れてしまうんじゃないかと思えた。
俺をこんな気持ちにさせた子は一颯が間違いなく初めてで、たぶん脳神経が混乱をおこし、先に本能が動いてしまった。
俺よりもずっときれいな男で、選ばれた人間にしかできないモデルの仕事も、一颯のためなら辞める、と簡単に言いきる。
あいつは、一颯に対して本気なんだ。
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