◇◇村上健司◇◇ 悔恨

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「俺は一颯を、今の状況に追い込んで育てたあいつらが許せない」 「……うん」  一颯の返答が弱い。 どうしてなのか、なぜ一颯がこんなに罪の意識に(さいな)まれているのか、おぼろな輪郭が形作られてきたような気がする。 一颯は……あいつを裏切った事、俺とこうなった事を後悔しているのか。 「ごめん、一颯。俺、急ぎすぎた。我慢できなかった」  声が震える。 涙が込み上げてくる。 一颯は、たぶんまだ心の整理がついていない。 無理に婚約者にされたとはいえ、兄妹のように育てられて、一時期は自分が面倒を見てきた男を裏切った。 品川に対してよりも、洋太って男にこそ、恋愛感情ではないにしろ気持ちがあることがわかる。  俺はそれに気づいてしまった。 一颯の実家にいる時にかかってきた電話で、そのことを潜在的に悟ってしまったのだ。 だから焦っていた。 だって、取られたくない。 どうしてもどうしても取られたくない。 誰かにこの子を取られたら、俺が壊れてしまうんじゃないかと思えた。 俺をこんな気持ちにさせた子は一颯が間違いなく初めてで、たぶん脳神経が混乱をおこし、先に本能が動いてしまった。 俺よりもずっときれいな男で、選ばれた人間にしかできないモデルの仕事も、一颯のためなら辞める、と簡単に言いきる。 あいつは、一颯に対して本気なんだ。
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