◇◇村上健司◇◇ 悔恨

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「洋太さんが、一颯の実家の焼失が嘘だと知ったのは、やっぱりつい最近……」 「そう。だからそれはすぐに一颯ちゃんに電話で伝えたよ。でも一颯ちゃんは知ってた。つい最近知って、そこから本格的に父を信じられなくなったんだね。僕も行って卒アルを見て、あなたに教えられたんだと悟りましたよ。おおかた記憶も戻ったそうですね」  品川と同罪だと思っていた。 実家の焼失を装うという大罪を、洋太は一颯に対して犯していると認識していた。 それを隠しているくせに、一颯を大切にしているなんてどの口が言うんだ、と思っていた。 一颯と洋太は、同じように品川に管理され、同じように苦しんでいた。 さらに洋太は、多感な時期に何かの原因で引きこもるようになり、それに対し家族の誰もが放置していたところを一颯に救われた。 洋太の方には共闘意識や連帯感、一颯を慕う気持ちが芽生え、それが強い恋心に繋がっていった。 でも一颯は、洋太の事を弟のようだ、と話してくれた事がある。 面倒を見ていた時期に生まれた感情かもしれない。 そこまでの背景があるから、洋太に恋愛感情はなくとも、他の種類の強い気持ちがあるんだろう。 だから強要され、おかしな催眠状態にされて婚約の書面にサインをさせられても、騙されただけだと洋太を簡単に切り捨てる事ができない。
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