1374人が本棚に入れています
本棚に追加
そこに俺が、嫉妬と焦りから強引な行動に出てしまった。
洋太が知っていたのかどうかはわからないが、一颯が、大学時代に他の誰かに恋心を抱いていてさえも、彼女の気持ちが自分に向くのを黙って待っていた。
何年間も。
婚約は大学の卒業時だと言っていたから、その時はまだ紙面上ではなんの関係もなかったにしろ、気持ちは一颯にあったはずだ。
一颯にとって、この目の前のきれいな男は、真に大事な存在なのだ。
だから……俺への気持ちを口にしたすぐあとにキスした時、「裏切りだ」と、涙を流した。
俺はなんて幼稚だったんだろう。
二十六歳という年齢の男がやる所業じゃない。
視線は、カップの底に残ったコーヒーに落ちたままだ。
「一颯ちゃんは小学校の時からあなたが好きだったんでしょう?」
「え?」
「一颯ちゃんの机に〝目指せK大〟と貼ってあった。あなたは中学からK大の付属で、大学はそこだと決まっていたんでしょう?」
「そうですね」
「皮肉な運命だと思うな。一颯ちゃんの気持ちを最優先できないあなたには似合いの結末なのかもしれない」
最初のコメントを投稿しよう!