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「なるほどな。それを健司はわかってなかったと? でも月城さんは健司が好きなんだろ? ちゃんと婚約解消して戻ってくるんだろ? それでなんで健司がそんなサンドバックみたいな状態になってんだ?」
「一颯は……戻ってこない。いや、戻ってきちゃダメなんだ。俺といると幸せにはなれないから」
「は? なんで?」
俺はナツに、一颯が両親の事故の前、妹の二葉ちゃんとサービスエリアで後部座席の左右を交代した件について説明した。
そのせいで二葉ちゃんは親の死を間近で目にすることになり、うつ病と失語症を発症した。
一颯は自分のせいだと思っている。
「一颯が席を交代したのはな……小学校の時に、俺がクラスで白衣観音の話をしたからだ。それが見たかったらしい。うちの部の新規事業の説明会の最後に、インパクトに残る仕事をしろって、白衣観音のスライドを見せた。一颯はまだ記憶喪失の状態だったのに、具合が悪くなって倒れたよ。俺といればフラッシュバックが起きる」
さすがに驚いたのか、ナツは三秒くらい口を閉ざしていた。
「フラッシュバックが起きるとは限らないよ。それは可能性の問題だ。今、月城さんは、健司がした白衣観音の話に惹かれて、それが見たくて席を替わった事、思い出してるのか?」
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