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出張から帰ってきてから、健司の様子がおかしい。帰ってきてからというか……出張中からすでに腑に落ちない。
このくらいはいいかな、と送ってしまう〝おはよう〟のラインに、そっけない返信が一度戻ってくるだけ。
それに返信しても、もう再度の返信はない。
もちろんデートなんて誘ってもくれない。
出張から戻った次の日、健司の方からあった連絡は、簡潔で事務的だった。
この間わたしの実家から持ち出せた書類はなんだったのか?
わたしの今までの境遇に、Canalsの顧問弁護士を通して法的な措置をとるつもりだから、関係のありそうな書類の写しを送ってもらえるとありがたい、と、それだけだ。
両親の遺言書と自分たちにかけていたかなりの額の保険金関係の書類だ。
母も亡くなっている現在、もちろん受取人はわたしと二葉だ。
両親と品川の叔父は関係が良好ではない、どころか、すこぶる悪かったことが遺言書によって判明した。
確かにわたしと健司の関係は今、微妙だ。
それはわたしのせいた。
健司の気持ちに応えておきながら、紙面上とはいえ婚約していることが引っ掛かり、きっと突き放すような態度になってしまっている。
健司は「待つ」と言ってくれている。
だから今の距離感がおかしいわけじゃない。
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