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「月城……事故の前後の記憶は最初からおぼろげにあったって言ってたよな? 二葉ちゃんと席を替わったことも最初から覚えていた。じゃあさ、なんで席を替わったのかは覚えてる? 何か見たいものがあったんだよな? それが何だか、どうして見たかったのか、思い出した?」
「ううん。それは思い出せない」
小さくため息をついたように見えた。安堵したようにも、がっかりしたようにも、どっちともとらえられる表情をしている。
「じゃあ、気をつけて帰ってな」
健司はIDカードでまたゲートを抜けオフィスビルの中に入って行った。
なんだったんだろう、最後の質問。
でも今のわたしには、それよりもこの封筒を渡された事の意味を考える方に頭が働いてしまう。
「療養プログラムの試算……」
そんなことまでしてくれたのは嬉しい。
すごく嬉しい。
でも、違和感が徐々に寂しさに変わっていった。
健司は、二人衝動にかられて結ばれてしまったあの日、確かに言った。
「そうだな。全部終わったら一緒に暮らそう。二葉ちゃんも呼んで。アメリカでのプログラムがいくらかかるのかわかんないけど、Canalsはもっとでかくするよ。俺、稼ぐから」
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