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「月城さん、大丈夫か。無理に歩かせて悪かったな」
完全に気を失っているところを、引きずるようにしてここまで連れてきたのだ。
どうしていきなり倒れたりしたんだ?
月城の様子が急変したのは、俺が白衣観音をスクリーンに移したたぶんその時だ。
見ていないふうを装いながら、どこまで月城の様子を伺っていたんだか。
髪の毛に隠れた場所にでも、月城専用の目でもあるんじゃないかと自分で自分を疑いたくなる。
ここは医務室だからって勤務医がいるわけじゃない。うちはまだ産業医を置くほどの社員数をかかえているわけじゃないから。
ベッドに月城を寝かせて布団をかけ、その周りのカーテンを左右から閉めると踵を返した。あとで女子社員にでも様子を見にきてもらおう。
開けっぱなしにした引き戸の前で俺は、ふと振り返った。カーテンの細い隙間からちょうど瞳を閉じた月城の寝顔が見える。
俺は戻って外側からカーテンをぴっちりと閉めた。
具合が悪くなって男性社員がここにこないとも限らない。男性社員に月城の寝顔を見られるのが不愉快だと感じている。
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