◇◇村上健司◇◇ 邂逅

8/33

290人が本棚に入れています
本棚に追加
/244ページ
でも俺は、どこかでいつもナツが羨ましかったのかもしれない。俺にとってのそう思える相手も、地球上のどこかにいるような気がしていた。 「めちゃ純粋だったよなー」  今朝の夢に出てきた初恋の女の子を思う。正直もう顔だってうろ覚えだ。 でもあの頃のような透明で真っ直ぐな想いを、何人もの女の子と付き合ってきた二十六の男が、今さら持てるとも思えない。初恋とは、なんと貴重な現象だろうか。 今日は土曜日で会社は休みだ。大学時代に始めた家庭教師の派遣会社は創業から六年がたったが、最初の一年は右往左往に試行錯誤でほぼ収益化はできなかった。 でも二年目からは年商が数十倍単位と加速度的な伸びを続けている。正直、自分たちが一番驚いている。 社長はナツだが、創業時のメンバーーー主にFORGAの面々および大学ヨット部と経済学部同期が多いーーが、やりたい事をみんなで精査して決めてきた結果ではある。 その度にスタッフを臨時で雇い、ずっといてもらわないと仕事が回らなくなり正社員へ、の道筋をたどってきた。 その時々のプロジェクトに詳しい人材をキャリア採用で取ってきた。 その結果、今、社員は百六十人になり、現在はIPO(新規上場株式)の準備中だ。 実現すればかなり早い上場らしく世間の話題にもなっている。
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

290人が本棚に入れています
本棚に追加