◇◇村上健司◇◇ 問題

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枝川が疑問を(てい)したところで、俺は人差し指で自分の耳をちょんちょんと差した。 ふたりは息を飲む。俺の意図にすぐ気づいたのだ。盗聴器が仕掛けられている恐れがある。 「あっちのほうがガラス張りのここよりは安全か。健司は枝川と違って飲みに行くことも多いしな」 ナツが不自然な間を作らずに返答してくれる。 「へへへー。だって俺もうすぐ結婚するしー。外で飲むより家がいいしー」  枝川は大学時代からつき合ってきたサークル仲間のリカちゃんと同棲中で、もう入籍も決まっている。 「聞いてねえっーつーの!」  ナツよりは遅いけど、まだ二十六だぞ、枝川。どうして俺の周りはこう結婚が早いんだ! 「まあ、今どうのこうの言っても始まんないし、せっかく夜中に集まったからラーメンでも食って帰るかー。いや店やってねえかー」  二人とも盗聴器があるかも知れないことを考慮し始めてから、いきなり話題と口調が軽くなっている。  ナツがまた寒そうに両腕を高速でさすっている。よほど急いで来たんだろうな。だけどよくアウターもなしに外を歩けたな。
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