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「雪亜、おつかれー。今日も行ってたの?」
午前中の予定を済ませ、直でスタ練に向かう。重い扉をゆっくり押していると、後ろから、バンドメンバーのドラム、楓が来た。
背が高くスラリとした体格、頭も良く品のある所作をするコイツは、めちゃくちゃ女に人気がある。
「ああ、まあな。一応、新メンバーの報告に」
「あーね。俺も十分前くらいにここ着いてさ、今飲み物買いに行ってたんだけど、もう来てたよ。あの子」
二人でドアを潜り、予約してある部屋まで向かう途中、その部屋を指差して楓が言った。
「真面目だよなー。昨日も一人残って練習してた」
「ふーん。ま、底知れぬセンスはあるけど、技術的にはまだまだだもんな」
「厳しいね、この前、聴き入ってたくせに」
「うるせー」
「でもよく女だって気付いたね。俺わかんなかったよ。男みたいな服着て、顔も髪で隠れてるし」
「わかるだろ。骨格で。さすがに、あんな華奢な男いねーよ」
「まあ……そうか」
「美人だったぜ」
「は?」
「パッと髪左側の髪だけかきあげた時に、顔が見えた。美人だったぞ」
「うわー……さすが女タラシ。チェックが早い」
「なにっ⁉︎タラシとは失礼だな。俺はたらした覚えない。だいたい、あっちからくるんだ」
「おー。さっすが〜」
「おまえ……。ムカつく。ま、美人だろうがブスだろうが演奏には関係ないけどな。贔屓はしない」
「……うわー。せっかくの上者、辞めさせないでよ?」
「わかってるよ」
エントランスを抜け、スタジオの扉を開き、中へ入っていくと、また胸を掴まれるようなギターの音が聞こえた。ジン、と目頭まで熱くなってしまいそうなその演奏。なんなんだ。おまえ。
こんなすごいやつがメンバーに入ってくれて嬉しい反面、密かに嫉妬もしていたのかもしれない。
こいつは、俺よりも亜星に近い。
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