with you

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 バンドを組んだのは中三の時だった。一人目のドラムは受験勉強と共に三ヶ月くらいで辞めていった。  二人目は性格の不一致、三人目はまったく練習しない奴だったため、当分はドラム無しでのんびりとやろうということになった。  時々ドラムのスケットを募集し、時々ライブにも出してもらえるようになった。  亜星の声は、やっぱりすごいみたいで、ライブに出るとそれなりにファンが増え、俺たち二人は、どんどん知名度が上がり、今注目されている高校生ミュージシャンとして取り上げられるようになった。  俺は、ベースが大好きになり、理論まで勉強したくなるくらいに仕上がっていた。  亜星と共に、安定剤のような音楽を奏でたかった。  「ありがとうな!雪人」  その日、俺と亜星は俺の部屋で曲の構成を練っていた。  「は?何が?」  「いやあ、俺と一緒に、音楽してくれて」  「自惚れんなよ。おまえのためじゃない。俺も楽しいからやってんだ」  「ははは!雪人らしい言い分だ」  「音楽ってすごいよな」  「ああ。なんだよ。改めて」  「実はさ、俺には歳の離れた兄ちゃんがいてな、その兄ちゃんが一時期荒れてたことがあって」  「ほう」  「自暴自棄になったり、生きる意味を失ってるように無気力になったり、不安定だったんだけどさ、あるバンドの曲を聴いて、その人たちのファンになってから、彼は変わったんだ。俺や母は、何もできなかったのに」  「………」  「音楽ってさ、人の孤独を癒せるんだよ。俺はさ、兄ちゃんが救われたみたいにさ、人の心を動かせるような曲を作りたいんだ!その為には世界観、心理、風景全て音で表わせられるようにしなきゃならない!」  「おまえ、なんかすげーな」  ポカンと間抜けな表情をしていただろう俺を亜星は「適当だろ〜」と笑って言った。  あいつが何を言っているのか、俺にはピンとこなかった。  俺が音楽をしたいのは、楽しいから。かっこいいから。そんな理由だ。  第一、風景を音で表すってなんなんだよ。意味わかんね。けれど、あいつの歌はそれに近いことだけはわかっていた。  でもあいにく、俺には難しいみたいだ。どうしたらできるのか想像もできない。  でも亜星は目を輝かせ、いつも言っていたな。その情景が浮かぶように、音階を工夫するとかなんとか。  そういうさ、芸術的なことはおまえに任せるよ。俺は、おまえの言う通りに奏でるからさ。  それにしても、人の心を動かすなんて無理すぎんだろ。
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