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「じゃあな。バイト終わったらさ、またここに戻ってくるからさ」
「おう。早く来いよ。おまえいっつもちょっと遅刻するからな〜」
「許せよ友。色々忙しいんだ俺は。あ、お詫びに駅前のコロッケ買って来るよ。雪人が食べたいって言ってた、チーズ入り」
「マジか、よっしゃ!約束な〜」
その日、亜星はまた約束の時間をすっぽかした。いつもの事だ。と、俺はあいつと作った曲を弾きながら適当に待っていた。
雪でも降りそうな、寒い夜だった。
あいつの言っていたことを思い出しながら、もう一度曲を聴く。失恋の曲か?
いや、違うな。失恋から、立ち向かう曲か。
この、『綺麗な夜の中君を探す』って歌詞の所、ギターは鈴の音みたいに細かく鳴って、星の輝きとか、主人公の心の機微を表しているように思う。反対に、ベースは夜を作っている。ゆっくり重く単調だけれど、捻らない澄んだ音。忘れた頃に急に、高くなったりする。
どうだ、ちょっとわかってきたんじゃないか?情景の作り方。そうだ、分析があっているのか、あとで亜星に訊いてみよう。
けれど、一時間経っても、二時間経っても、亜星は戻って来なかった。
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